
こだま・たけひろ 1970年生まれ。会社員、古本&カレー店主を経て、2015年から知的障害者の自立生活支援に携わる。
2021年に重度訪問介護、居宅介護、移動支援を行う自立生活支援ヒビノクラシ舎を立ち上げ、
現在は管理者およびサービス提供責任者。共著に『支援のてまえで たこの木クラブと多摩の四〇年』(生活書院)など。
マンションの1階で、土曜日だけ開くお店。名づけて「土曜日のスプーン」。メニューはあっても、値段はありません。お代は、食べた人の気持ち次第。そこには「支援する人、支援される人」という垣根を越えた人との出会い、地域の願いがありました。聞き手・構成/濵田研吾 写真/堂本ひまり
店が混むと面白くない?
─ヒビノクラシ富士見台カフェ(東京都練馬区)の「土曜日のスプーン」は、その名のとおり、土曜のみの営業です。キーマカレーのランチプレートをいただきましたが、味も、盛りつけも本格的で、美味しかった!
ありがとうございます。メニューは、週替わりのごはんセットが一品、あとはデザートと飲み物。ふだんは、ヘルパーの仕事をお願いしている市川彩さんと松本真奈さんと僕の3人で、切り盛りしています。本音を言うと、ほどよくお客さんに来てほしい。店が混むと調理や配膳で忙しくて、お客さんとおしゃべりできないので面白くない(笑)。
─児玉さんの経歴は面白いですけど(笑)。
脱サラして、千葉の外房に移住し、古本とカレーの店を始めました。店は家族の事情で閉じることになり、ハローワークでたまたま目にしたのが、介護福祉士の資格を取れる学校の生徒募集だったんです。そんな縁で、とくに思い入れもなく、この世界に入りました。
─どういう流れで、現在のヒビノクラシ舎につながったんですか。
都内の社会福祉法人の施設で働いたのち、友人の紹介で国立市の重度訪問介護(※1)の事業所で働きました。その傘下として、千葉県市原市と練馬区で、事業所を立ち上げました。練馬ではフリースペース「ヒビノクラシ舎」をはじめ、本好きが高じて、自費出版もやりました。2021年にその事業所から独立したとき、「ヒビノクラシ舎」の名前を使ったんです。 知的障害者の自立生活支援に携わる意味で、岩橋誠治さん(※2)との出会いは大きかったです。岩橋さんは、地域で暮らす障害のある子どもと小さいころから接していて、学校生活、進学、就職とそのときどきで直面する問題に向き合い、大人になってもサポートを続けました。どうすればその人らしく、地域のなかで暮らしていけるのか。岩橋さんから、そのことの大切さを学びましたね。
豪華なごはんセット(キーマカレー、ごはん、パイナップルのサンバル、
モロヘイヤとつるむらさきのスープ、ズッキーニのクミン炒め、
薄焼きせんべいのパパド、紫玉ねぎの梅酢漬け、ヨーグルト)
制度外の「ドネーション食堂」
─2023年4月、「土曜日のスプーン」がオープンします。
利用者さんとそのご家族は、僕たちのことを、サービスを提供する介護事業所の人間として見ます。でも、尊敬する岩橋さんは違う。人として出会う。介護事業者としては、そうした出会い方がむずかしいんです。そこで考えたのが、誰でも来ることのできる食堂です。障害者福祉とは関係なく、ごくフツーの町の飲食店を目ざしました。
─メニューに値段がなく、ドネーション制(自由料金制)なのがユニーク!
藤原辰史さん(※3)は、「公衆トイレがあるように、地域に公衆食堂があればいい」と書かれています。でもそうなると無料にしないといけないので、出せる料理やメニューに限界がでます。そこで浮かんだアイデアが「ドネーション食堂」。店内に置いた猫の器に、お客さんが投げ銭をする。小銭を「チャリン」と入れる利用者さんもいれば、お札を多めに入れてくれる方もいるから、やっていけますね。
─ヒビノクラシ舎のウェブサイトには「ハプニングの花咲く食堂」とあります。
そうそう、厨房ごしに見ていると、とっても楽しい。でもふつうは、ハプニングを恐れますよね。ご両親と障害のある息子さんが3人で来られたとき、息子さんがちゃぶ台をひっくり返した。ご両親がすごく恐縮されて、それから来なくなってしまった。「気にしないで、また来て」と思えるのは、僕が飲食店の人間だからです。職業介護者として介助していたら、ご両親と同じように恐縮したはず。障害者福祉制度の外にいる自分と、内にいる自分。ふたつの人格があることに、気づかされました。
・・・続きは『のんびる』9.10月号特集をご購読ください。
◆9.10月号目次◆
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