「みんなの図書館さんかく」の今、そして、これから(特集「本でつながる」より)

「みんとしょ」誕生まで  
静岡県焼津市の駅前通り商店街の空き店舗を活用し、運営しているのが民設民営の図書館「みんなの図書館さんかく」です。かつてはにぎわっていたこの商店街も、今ではシャッターが閉まったままの店が目立ち、まちの衰退を肌で感じられるようになっていました。そんな通りに、ずっと空き店舗になっていた元おでん屋さんを活用して、2020年3月「さんかく」をオープンしました。
  
土肥潤也さん(みんなの図書館さんかく 館長)
そもそものきっかけは、自宅の本棚があふれてきたことでした。本が好きで、気がつくと本が増え続け、置き場に困っていました。それならいっそ、誰かと共有できる場をつくってみよう。そんな気持ちで、私設図書館の構想を描き始めました。  
ちょうど同時期に仕事でドイツを訪れ、市民自治の取り組みを目にしてきました。当たり前のように市民が地域や社会に関わる姿を目にして、大きな刺激を受けました。  だからこそ、「さんかく」という名前には、「三角形」ではなく「参画」の意味を込めています。市民一人ひとりが自分の形で「参画」できる“まちの居場所”をつくりたい。そんな思いから活動が始まりました。  
しかし、開館直後に私たちを襲ったのが新型コロナウイルスの感染拡大でした。緊急事態宣言の発出により、開館からわずか2カ月で臨時休館。人が集う場を提供しようとしていた私たちにとって、まさに出鼻をくじかれるようなスタートでした。  
そんな中、近所の小学生が「本を借りる場所がなくて困っている」と訪れてくれました。市立図書館も休館し、学校にも行けない。そんな子どもたちの声に応えたくて、SNSで児童書の寄贈を呼びかけたところ、市内から200冊以上の絵本や児童書が届きました。  
寄贈本には感想カードを挟み、本を通じたコミュニケーションが生まれる工夫もしました。公共施設が閉まる中でも、「さんかく」は柔軟に対応しながら地域のニーズに応える存在となりました。これこそが市民自治であり、地域の課題を自分たちで解決する原体験にもなりました。

「一箱本棚オーナー制度」

「みんなの図書館さんかく」の象徴的な仕組みが「一箱本棚オーナー制度」です。これは、月額2千円を支払うことで、館内に自分専用の本棚を持つことができるというもので、それぞれが思い思いの本を並べています。お気に入りの作家を集めた本棚、動物保護に関する本を置く棚、温泉に特化した棚など、本棚自体が「小さな自己表現の場」として機能しています。
「人に本を貸すためにお金を払うなんて」と思われるかもしれませんが、不思議なことに、定員の60棚はもう満員で、キャンセル待ちが出るほどの人気ぶりです。本棚を通して「自分の好き」が誰かとつながる体験は、SNSにはない温かさと確かさがあります。本棚に添えられた感想カードや、気になった本棚オーナーへのお手紙など、SNSが定着する時代だからこそ、アナログならではの「ゆっくりとしたやりとり」も魅力のひとつです。  
焼津の「さんかく」の仕組みを見て、「私たちも真似をしたい!」と、全国各地から視察が集まっています。

・・・続きは『のんびる』5.6月号特集をご購読ください。

◆5.6月号目次◆

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